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大阪地方裁判所 平成6年(わ)330号 判決

本籍

大分県東国東郡国東町大字岩屋六八六番地

住居

大阪府八尾市渋川町五丁目六番一〇号

鉄筋工事業

長木伸孔

昭和一三年一二月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官濱田毅出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三六〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府八尾市渋川町五丁目六番三二号において、「長木鉄筋」の商号で鉄筋工事業を営む者であるが、自己の所得税を免れようと考え、

第一  別紙修正損益計算書(一)記載のとおり平成二年分の総所得金額が二億一五七三万二四六六円であったのにかかわらず、架空の外注費を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成三年三月一五日、大阪府八尾市高美町三丁目二番二九号所在の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が七七六四万八七六〇円で、これに対する所得税額が三三九〇万五五〇〇円である(但し、申告書では、所得控除の過誤により三三七八万〇五〇〇円と記載)旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙税額計算書記載のとおり同年分の正規の所得税額一億〇二九四万七五〇〇円と右申告税額との差額六九〇四万二〇〇〇円を免れ、

第二  別紙修正損益計算書(二)記載のとおり平成三年分の総所得金額が二億六二五一万八四二九円であったのにかかわらず、前同様の行為によりその所得の一部を秘匿したうえ、平成四年三月一六日、前記所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が七四八七万五五七二円で、これに対する所得税額が三二五一万二〇〇〇円である(但し、申告書では、所得控除の過誤により三二三三万七〇〇〇円と記載)旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙税額計算書記載のとおり同年分の正規の所得税額一億二六三三万三五〇〇円と右申告税額との差額九三八二万一五〇〇円を免れ、

第三  別紙修正損益計算書(三)記載のとおり平成四年分の総所得金額が一億〇八七〇万二四四二円であったのにかかわらず、前同様の行為によりその所得の一部を秘匿したうえ、平成五年三月一五日、前記所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が七〇七七万四九八〇円で、これに対する所得税額が三〇七九万四〇〇〇円である(但し、申告書では、所得控除の過誤により三〇六一万九〇〇〇円と記載)旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙税額計算書記載のとおり同年分の正規の所得税額四九七五万八〇〇〇円と右申告税額との差額一八九六万四〇〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(三二、三三)

一  長木みゆきの検察官に対する供述調書(三一)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一四通(記録第二四-七号、同第二四-八号、同第二四-三一号、同第二四-三二号、同第二四-一〇号、同第二四-一一号、同第二四-一二号、同第二四-一三号、同第二四-一九号(平成五年七月一三日付のもの)、同第二四-二号、同第二四-一号、同第二四-一六号、同第二四-一九号(平成五年九月一〇日付のもの)、同第二四-二〇号)(一四、一五、一七ないし二二、二四ないし二七、二九、三〇)

一  大蔵事務官作成の「修正申告書写の提出について」と題する書面(八)

一  大蔵事務官作成の証明書(青色申告書の承認取消についてのもの)(九)

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(一〇)

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二四-九号)(一六)

判示第一及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二四-一五号)(二三)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年三月一五日に申告した所得税確定申告書写についてのもの)(四)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成二年一月一日から同年一二月三一日までの期間のもの)(一)

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書三通(記録第二四-四号、同第二四-五号、同第二四-六号)(一一ないし一三)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成四年三月一六日に申告した所得税確定申告書写についてのもの)(六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成三年一月一日から同年一二月三一日までの期間のもの)(二)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二四-一八号)(二八)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成五年三月一五日に申告した所得税確定申告書写についてのもの)(七)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成四年一月一日から同年一二月三一日までの期間のもの)(三)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、罰金はそれぞれその免れた所得税の額に相当する金額以下とし、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金三六〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、鉄筋工事業を営む被告人において、三年度にわたり、合計一億八一八二万円余の多額の所得税を脱税した事案である。被告人は、将来の不況に備えての資金留保などの目的で脱税を企図し、経理担当者に指示して架空の外注費を計上させるなどの方法で簿外預金として所得を秘匿し、脱税していたものであり、被告人の事業が景気動向に左右される業種であることは理解できるものの、不況時の対策は本来健全な経理下で納税義務も果たしたうえで行なうべきことは当然のことであって、したがって、動機面で特段しん酌すべき余地はなく、その手口、方法も悪質というべきで、納税義務に大きく違反する犯行であり、これらの点からすると、被告人の刑事責任にはかなり重いものがある。

しかし、他方、被告人は、本件摘発後、事実関係を認めて、修正申告も済ませ、既に本件ほ脱にかかる所得税本税は全額納付し、附帯税についても分割納付中であり、法廷でも再過なきことを約しているなど、反省の態度が認められることのほか、相当数の従業員を有する事業における被告人の立場等考慮すべき事情がある。

そこで、これら有利不利一切の事情を考え、被告人を主文掲記の懲役及び罰金刑に処したうえ、懲役刑についてはその刑の執行を猶予することにする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

修正損益計算書(一)

〈省略〉

修正損益計算書(二)

〈省略〉

修正損益計算書(三)

〈省略〉

税額計算書

〈省略〉

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